骨粗鬆症

糖尿病と骨粗鬆症

●インスリン依存型糖尿病の方
インスリンの不足は血糖値を上昇させるだけでなく、骨へも影響します。骨を造る細胞の働きを弱めたり、腸管からのカルシウム吸収を増やす活性型ビタミンDの腎臓での産生を低下させ、骨量を減少させます

●食事療法の指導を受けている方
糖尿病や高脂血症などで食事療法をしていると、カロリー制限から十分にカルシウム量を摂取できないため、カルシウム摂取不足となります。その結果、血液中のカルシウムを補うために骨からカルシウムが溶け出し、骨量が減少する1つの原因と考えられています。

生活習慣病と糖尿病

我々日本人の生活パターンの欧米化と飽食の時代の到来とともに、糖尿病を始めとした生活習慣病がご存じのように本邦においても増加の一途をたどっています。糖尿病患者さんの治療は、種々のインスリン注射剤および経口血糖降下剤の開発により多様化しつつありますが、これら支持療法の発達した今日では、個々の糖尿病患者さんの健康維持は一昔前に比べて徐々に改善されつつあるように見受けられます。

また種々の臨床試験や疫学的研究により糖尿病における血糖管理の意義、合併症を防止するための血圧管理の重要性が科学的に明らかとされつつあります。このような環境の下で、糖尿病の患者さんの寿命も延長してまいりましたが、それにともない3大合併症(腎症、神経症、網膜症)に加えて骨粗鬆症も、一つの臨床上無視し得ない合併症となってきました。


糖尿病と骨粗鬆症の関連について

従来、我が国では井村らの大規模な疫学研究で、糖尿病が骨粗鬆症の危険因子になるとの成績が報告されていたにも拘わらず、国際的には糖尿病は骨粗鬆症の危険因子ではないとの意見が広く採用されていました。このような疫学的差異は日本人と欧米人では、インスリンの分泌能力およびインスリンの感受性が異なるためにもたらされていたのではないかとも想像されます。

実際、インスリン分泌能が多いほど、腰椎骨密度が増大することが、健常人においても糖尿病患者さんにおいても認められており、日本人の糖尿病患者さんでは欧米人に比して早期にインスリン分泌が枯渇してしまうことが、日本人の糖尿病患者さんにおける骨の強度の減少に関与してきた可能性が考えらます。しかし、欧米人においても、ごく最近の大規模臨床試験では、糖尿病患者さんでは健常人に比べて骨折頻度が約2倍程度にまで増加していることが明らかとされ、糖尿病における骨強度の減少の意義がいま国際的に問い直されつつあります。


実際に長期にわたる高血糖そのものも、1型コラーゲンなどの骨に含まれている蛋白質をグリケーション(糖化)し、骨の正常な新陳代謝を障害することで骨の力学的強度を減弱させるのではないかと考えられるわけです(図1)。また私たちの研究室では2型糖尿病のモデルとなるラットを用いて、糖尿病における骨の強度の変化を検討したところ、長期間に持続した高血糖が骨強度の減少をもたらすことがわかりました。また2型糖尿病の病態形成に関与する腫瘍壊死性因子が骨を形造る骨芽細胞の機能を低下させるとともに、骨を壊す破骨細胞の数の増加や機能の亢進をもたらすことを報告してきました。
糖尿病と骨折の相関図
図. 糖尿病における骨粗鬆症の発症メカニズムと骨折リスク
糖尿病では骨代謝に影響する種々の因子(図右側)の関与とともに糖尿病の3大合併症の関与があり、骨折頻度の増大がもたらされる。


糖尿病患者さんの骨の健康を考える

高齢化社会が訪れた今日において、健やかな老後を送るためにも骨の健康の維持が社会的に重要視されるようになってきており、糖尿病患者さんにおける骨強度の減少の病態解明、予防法、治療法の確立が急務となってきています。現在、骨粗鬆症の診断は科学技術の進歩を取り入れて骨塩定量を用いて診断して加療しており、骨粗鬆症の臨床にもようやく光が差し始めた感がありますが、研究などはまだようやく緒についたばかりであり、本領域の臨床は画像検査などの技術革新に伴い今後ますます大きく変化していくのではないかと思われます。我々の研究結果からも、また臨床のデータからも糖尿病では骨の新陳代謝が低下しており、力学的強度を保つ上で重要である骨外側の皮質骨の劣化が引き起こされていることが、強度の減少に最も関連しているのではないかと考えられます。すなわち、我々が現在骨粗鬆症の臨床に多用しています骨密度測定装置は、単に単位面積あるいは単位体積当たりの骨ミネラル成分量を判断する手法であり、骨の微細構造の劣化などは評価できていないのです。

また同じ骨密度値であっても長期に高血糖に暴露され骨基質蛋白がグリケーションを受けた骨では、新陳代謝が障害され、健常人の骨に比べて易骨折性が亢進していることが推測されます。糖尿病患者さんで認められる骨粗鬆症では、原発性骨粗鬆症(閉経後、老人性骨粗鬆症)の診断基準を応用しながらも、より早期の骨に対する診療のスタートが望まれると思われます。私見ではありますが、5年以上の病歴がある糖尿病がベースにある場合には、低骨密度群も薬物療法の対象とすべきだと思います。なぜなら糖尿病患者さんでは合併する網膜症のために視力が低下し、また神経症などのために感覚が充分ではなく、転倒する機会が健常人に比べて飛躍的に増大するからです(上記図1)

さらには糖尿病患者さんでは時に血糖が著しく高値であり血糖コントロールに時間を要したり、心・腎機能が骨折に対する手術に耐えられるか否かを評価するのに手間取ることが多いのです。緊急手術が望まれるような大腿骨頸部骨折においても、時として待機手術とせざるを得ない場合に往々にして直面します。転倒する頻度が高く、また外科的治療においても高リスクとなりやすい糖尿病は他の続発性骨粗鬆症の原疾患とは厳密に区別すべき一疾患群と考えるべきだと思われるわけです。


糖尿病性骨粗鬆症の治療

今日まで糖尿病診療は3大合併症の阻止のために最大限の努力が傾注されてきました。特に糖尿病患者さんにおける食事制限はカルシウム摂取不足を招きやすい上に、浸透圧利尿によるカルシウムの尿中への喪失、さらにはグリケーションによる骨基質の劣化などから易骨折性の亢進がもたらされます。そのような病態においても適切な時期に骨の劣化を守る薬物療法を取り入れることで骨折の危険性を減少させることができると考えられます。またすべての糖尿病患者さんを一くくりにできないのと同じように、患者さん個人個人で骨の劣化をもたらす因子は異なると考えられますので、個々人の内因性ホルモン環境、遺伝環境、生活・食事環境を加味した上で適切な食事・運動療法とともにオーダー・メイドの薬物療法が選択されるべきであろうと思います。

一言で食事療法・運動療法というのは容易ですが、糖尿病患者さんでは一日総カロリーが制限されており、特に腎機能が障害されているような場合には蛋白質も制限されております。糖尿病の病期に応じて骨粗鬆症を合併した場合の食事療法も異なるわけです。また運動療法は自律神経障害や腎機能障害がある場合、網膜症で眼底出血がある場合など個々の事情に応じて処方を調節する必要があります。

低代謝回転を呈しやすい糖尿病性骨粗鬆症の薬物療法としては、骨代謝を活性化するような薬剤が望ましく、小腸からカルシウム吸収を増大するとともに骨芽細胞の骨基質蛋白を増大させるような活性型ビタミンD製剤は有効性を発揮できる可能性があります。また昨年米国で臨床応用が可能となった副甲状腺ホルモン(PTH)も骨に対する同化作用から治療効果が期待されます。また我々は、ビタミンK製剤(メナテトレノン)が骨のミネラル成分であるハイドロキシアパタイトの構成成分を変えることで本症の骨強度の減少を改善させることを糖尿病モデルラットで見出しています。一方、原発性骨粗鬆症治療のゴールデン・スタンダードとされるビスホスホネート製剤は骨吸収を強力に抑制できますが、本症でもたらされる骨強度の減少のメカニズムからはさらに骨の新陳代謝を障害し、グリケーションされた骨の新陳代謝を妨げる可能性も考えられるため慎重な使用が望まれるのかもしれません。


まとめ

糖尿病患者さんの診療に際しては血糖、血圧、脂質などの厳密な管理が重要ですが、糖尿病状態が骨代謝に与える悪影響も同時に推し量る必要があり、特に骨折頻度や予後が悪化しやすい糖尿病においては早期に適切な食事・運動習慣の確立とともに骨の劣化を防止するに適した薬物療法を選択すべきと考えられます。

(監修/和田誠基先生:武蔵藤沢セントラルクリニック 院長)

 

後援:日本骨粗鬆症学会 (C)yutakanahone-suishin-iinkai